アプリをグローバル展開して、ユーザ数や売上をあげていきたい。そう考える企業やアプリ開発者の方は少なくありません。
けれども、海外展開するにあたりどのマーケットを狙えばいいのか、アプリをローカライズしたところで採算が採れるのか、といった疑問もあるでしょう。
今回は、子育てアプリを展開するWachangaの事例をもとに、その答えを探っていきたいと思います。
Wachangaは、キプロス発のスタートアップ企業で、子育て世代向けのアプリを提供しています。同社は50ヶ国語以上の言語にアプリをローカライズし、積極的に海外展開を行っている会社です。
まず多くの開発会社が海外進出にあたって考えるのが、アメリカをはじめとする英語圏だと思います。確かに、英語は英語圏だけでなく、ビジネス共通言語としても世界で広く話されています。
また英語はローカライズ先言語としても、トップレベルの需要があります。話者人口が多い英語に翻訳しておけば、とりあえず多くのユーザーに届くんじゃないか、という感覚を持たれている方も少なくありません。
一方で、Wachanga社がとったのは、真逆の戦略。確かに英語にローカライズすれば、多くのユーザーにアプリを届けることができます。ただ一方で、英語版は競争率が激しい。
競争率が激しい市場で、アプリの認知度を上げていくには、それなりに広告費なども発生します。つまり、英語圏は、魅力的な市場である一方、コストがかかり、売上を伸ばすのにも時間がかかるのでは、というのがWachangaの仮説でした。
Wachanga社が行ったのは、アメリカ以外の国を主なターゲットとし、自社のアプリを低コストで多言語に翻訳することでした。結果、アメリカだけに展開した場合よりも、大きな利益を生み出すことができました。
1つの巨大な市場を取りに行くよりも、小さな市場をより多く取っていく、というのが同社の戦略でした。ローカライズ版の数を増やし、地理的に拡張していくことで、アプリの成長を促しているのです。
Wachangaが最初に海外展開に取り組んだのが、授乳管理アプリ「授乳ノート」です。当時、ロシアを主な市場としており、アプリの収益は低迷気味。
しかし、ローカライズ版のリリース後には、8ヶ月で利用者数が10倍以上に増加し大きな成長を見せました。以下が「授乳ノート」のローカライズ前後での数字を比べたものです。
アプリ「授乳ノート」のローカライズ前後比較。数字はオーガニックのみの数字。
その後も翻訳先言語を増やし、全体のダウンロード数は800万、アクティブユーザー数は140万人を突破。現在に至っても、ダウンロード数、ユーザー数ともに毎月15~25%増の成長率を見せています。
Wachangaがローカライズの際に使用しているのが、オンライン翻訳サービス「Nitro」です。翻訳元のテキストをコピペして、翻訳したい言語を選ぶだけで、一気に多言語への翻訳ができるツールです。
オンライン翻訳ツール「Nitro」
単に翻訳テキストを送信するだけではなく、アプリのスクリーンショットなども貼り付けて、翻訳者にテキストの文脈を伝えるようにしています。こうすることで、誤訳や期待していた翻訳結果と違う!といったことも防ぎます。
Nitroで翻訳を行うのは、ネイティブのプロ翻訳者のみなので、翻訳の質は担保されますが、重要度が高い言語に関しては、校正も行い翻訳の品質チェックを行っています。
ローカライズ版からどのようなインサイトを得ることができたのか。その一部をご紹介したいと思います。
ドイツは有料版を使うユーザーが多く、収益面では非常に優れたマーケットだと言えます。有料版の機能に納得してもらえれば、アプリにお金を払うことに抵抗を感じるユーザーが少ないように感じます。
ブラジルでは、アプリへの反響は大きかったのですが、その分批判的なレビューや改善を求めるレビューがかなり多く見られたマーケットです。その後、レビューの声をもとに、アプリを改善していった結果、ユーザー数も飛躍的に伸ばすことができました。
期待していた結果と現実が大きく違ったのが、スペイン語版です。当初は、スペイン語話者がもっとも多いメキシコに、かなり期待していました。しかし、ふたを開けてみると収益面では、スペインとアルゼンチンが圧倒的にいい数値だったのです。
両国は、メキシコよりも国民の購買力が高く、また文化的に西欧よりだったことが理由だと分析しています。このことから、収益を追求する場合には、人口だけでなく、その国も購買力も考慮すべきでしょう。
国によっては公用語とローカライズすべき言語が一致しないケースもあります。例えば、インドの場合。インドの公用語はヒンディー語ですが、インドは多民族国家でもあるため、英語も広く話されています。
インドでは、公用語であるヒンディー語版と英語版をリリースしたそうですが、結果的に英語版の方が反応がよかったそうです。
他にもイスラエルや南アフリカのように、一見すると英語のイメージがない国でも、そのイメージに反して英語の方が現地語よりも、一般的に使われているケースがあります。
進出先の国を決めたら、公用語の他にも一般的に話されている言語を確認することも重要と言えるでしょう。
テキスト翻訳も大事ですが、同時に重視したいのがデザインです。Wachanga社は、翻訳先の国に応じて、現地で好まれるデザインを意識しています。
また、ただ変更させるだけではなく、A/Bテストを実施して、どちらのイラストの方がコンバージョン率が高くなるのか、といったこともテストしています。
例えば、育児記録アプリ「Child Development」の場合、メインターゲットとしては母親のみを想定していました。しかし、ドイツの場合は、父親も積極的に育児を行う家庭が多く、記録を2人で共有できるようなシェア機能が求められていることが、わかりました。
さらにイスラーム圏のユーザーからは、赤ちゃんを寝かしつける際の、お祈り機能などをつけてほしい、といったユーザーの声もあります。
このように、大まかなアプリへのニーズは同じものの、細かい部分で国ごとに、機能を最適化していくことも、ユーザーに長く使ってもらうための秘訣だと思います。
製品のローカライズを考える際に、マイナー言語を選ぶことは少ないと思います。話者人口が少ない上、ローカライズしたところで、採算が取れるのかといった問題にぶつかるからです。
マイナー言語=採算が取れない。この考えを逆手にとったのが、Wachangaのケースでした。
Wachangaは自社のアプリを、ギリシャ語、セルビア語、ルーマニア語、ハンガリー語、クロアチア語など、50言語以上に翻訳しています。
スイス、デンマーク、スウェーデンといった北欧の国は、英語が広く使われていることでも知られていますが、それでも現地語へとローカライズを行っています。
なぜかというと、「英語はできるけど、やっぱり母国語の方がラク」と考えている人も多いようで、実際に現地語版の方が反応が良かったりするようです。
マイナー言語は、確かに話者人口が少ないという点で、マイナーなマーケットなのかもしれません。一方で、小さいマーケットだからこそ、参入してくる競合も少なかったりする訳です。
競合性が低ければ、その業界でトップも取りやすい。しかもコストもそこまでかからない。こうしたマイナー言語のマーケットでトップを多く取ることで、巨大市場に参入しなくとも、大きな成長を達成できたのがWachangaのケースでした。
海外展開というと、より話者人口が多い言語への翻訳、巨大市場への進出というイメージを抱く方の方が多いでしょう。
けれども、魅力的な市場であっても競合性が高く、アプリによっては、ローカライズしたものの、そこからほとんど成長しなかった、というケースも少なくありません。
Wachangaのケースは、あえてマイナー言語へとローカライズし、コストをかけず小さな市場でトップを取り、成長を続けていくというものです。アプリのカテゴリやターゲットによっては、こうした戦略を取り入れてみるのもありでしょう。
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